2009年05月05日

明るい表通りで 2

「ねえ、まだ早いんじゃない?」
今僕が抱えている問題の話になると、たいていの友人は「まだ早い」と分ったような顔をして諭そうとする。
早いと言うのは、僕が彼女との結婚を意識している事。つまり適齢では無いと言うのだ。
確かに僕は、まだ働いてもいないし、将来もまだはっきりと決まっていない。8月に予定している外交官試験への合格は物凄く難しいと決まっているので、たぶん就職浪人をするかもしれない。
posted by カオポン at 09:34| Comment(8) | 益田・ジャズ小噺 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月01日

On The Sunny Side Of The Street1

連休明けの5月の空は、つきぬけるように青く澄んでいた。
昨日まで降り続いてた雨は、アスファルトに小さな水溜りを残し、道行く人の足元を、鏡の様に映している。
僕はおろしたてのスラックスの裾が、どうか雨水で汚れませんようにと、そればかり気にしながら道を歩く。
時折すれ違う人と肩がぶつかっては、「すみません」と顔をあげ、そしてまた、歩行者道路の端っこをちまちまと。
男らしく、堂々と胸をはって歩けないものかと、我ながら情けなく思うけど、今日はどうしてもそう歩かずにいられない。
-----相手の方は目上だときてるし。変な格好で行ったら絶対に失礼だ。
頭の中に、これから会う人の事を思い浮かべてみる。
この数ヶ月、顔をあわせた事は無いけれど、その人は僕にとって、とてもとても大切な人だ。
-----今日はね、どうしても失敗できない日なんですよ。
ひょっとしたら、今日の行動次第で僕の運命が決まってしまうかもしれない。
習い始めた自動車教習所での路上運転よりも、先日行った外交官試験の模擬テストよりも100倍くらい緊張する。
ネクタイの結び目はこんな感じでいいのだろうか。ポケットにいれるチーフは。
靴は一番良い物を履いてきたけれど、かえって地味じゃないだろうか。そして会った時には「はじめまして」と挨拶を?
違う違う。はじめて会う人じゃないのだから、「こんにちは」だ。
それから「お久しぶりです」と続ければいいのか?それから、それから……!

頭の中で膨れ上がる不安と迷い。
数日前からこの調子が続いていて、その間ずっと眠れないでいた。
だけど今日で、事は決まる。
通りに面した店の窓をちらりと見やると、少しやつれた感じの僕が映っていた。
------大丈夫。“当って、砕けろ”…ですよね。
そう心の中で言い聞かせるものの、開き直る心の余裕は、まだどこにも無い。
たまらなくなって手のひらに指で「人」と書いた。
確か緊張をほぐすおまじないだと、聞いた事がある。僕は饅頭でも食べるかのように、手のひらに刻んだ「人」をぱくんと飲み込んだ。





先方の名は、小波さん。
僕とは2回り以上も年が離れていて、家族は奥さんと娘と息子の4人。
娘は僕と丁度同い年で、同じ大学に通っている。
数ヶ月前まで僕は時々、その方の家を出入りさせてもらっていた。
僕の両親は海外にいる。
家族との付き合いが随分遠のいていた僕にとって、小波さんの家庭は憧れであり、癒しだった。

はじめて訊ねた時から、小波さんはとても大人だった。
小波さんからしたら、僕など随分な若輩なのに、彼は昔からの友人の様に僕を迎えいれてくれた。
そして彼だけでなく、家族全ての人が僕に良くしてくれた。

一人暮らしは寂しいでしょうと、晩飯に何度も呼ばれたり、寒い時にはこたつに入ってみかんを食べたり、ちょっとだけお酒も呼ばれた。
あげてもらう部屋はいつも適当に散らかっていて、僕に気遣いをさせないように配慮してくれている。
初めて麻雀を教えてもらったのも、その部屋だ。
いつだったか、その部屋で寝てしまった事もある。あまりお酒が得意でない僕は、その時少し飲みすぎてしまった。
良い気持ちになってつい、うとうととしてしまい、気がつくと家族みんなが僕の周りで眠っていた。
すぐ近くで聞こえる寝息やいびきの音が妙に懐かしくて、僕はとても暖かい気持ちになった。

だけどこの前、新年の挨拶をしに伺ったら、様子が変わっていた。
玄関には他の客の靴もあったけれど、いきなり僕だけ違う部屋に通された。
通された部屋は、水墨画の掛け軸が飾っただけの簡素な和室。部屋の真ん中に座布団を敷いて、僕はその上に座らされていた。
何か起きるな。そう予想した僕は緊張した。と、同時に慣れない正座に足裏がじんじんと痺れてくる。
これは困ったと焦っていると、すっと襖が開いてその人が入ってきた。そして僕と座布団一つ分あけただけの近い距離で、僕の顔を正面から見据えると、こう言った。
「蒼樹くん。君は娘の事を、どう想っているのかね」と。
実は、娘さんとは4年前からお付き合いをさせてもらっている。友達としての付き合いから数えると、7年。結構長い。
小波さんと知り合えたのも、彼女との縁があったからこそなのだけど、
それまでの友好関係はどこへやら。
小波さんは急に、僕の事を憎き敵でも見るかのように睨みつけてきた……。




大きな口をあけて笑うところ。人前はばからず、感動すると泣いてしまうところ。どんな料理でも、出されたものは美味しそうに食べるところ。
「子は親の鏡」とは良く言ったもので、彼女はその人と、とても良く似ていた。彼女とのつきあいは、ちょうど4年経ったけれど、つきあえばつきあうほど、僕は彼女の事を凄く大切に想うようになったし、彼女の家族の事も凄く好きになった。
中でも特にその人…彼女の“お父さん”の事は、とても尊敬している。
その尊敬しているあの人から「娘はどこにも嫁に出さん」と言われた時には、結構ショックだった。
どうして急に、態度を変えたのだろう。僕が彼女に何かをしたのだろうか。
僕が彼女の事を好きなのは、ずっと前から分っていた事なのに…。
父親が娘の結婚に対して色々と煩くなるのは、何となく予想はついていたけれど、現実に直面すると結構きつい。

あの時は、雰囲気を察した彼女が中に入ってくれて、何とかその場をしのいだ。
その後、すぐに話し合いの場を持とうとしたものの、彼は頑なに僕を拒んだ。
そして、とうとう家への出入りも厳禁。
これには僕も相当落ち込んでしまったのだけど、彼女はとても強かった。

こういう時ほど彼女は僕の事を強く信じてくれて、異常に厳しくなった親の目をかいくぐって、僕に会いにきてくれた。
障害のある恋ほど燃えやすいと言うけれど、たぶん僕達もそれに近い状態なのだろう。
あの人に言われるまでは、それほど意識していなかったのに、今年に入ってから僕達は結婚の事を深く考えている。
何とか、話し合いの場を持ちたい。そんな事を思い悩んでいたら、チャンスは急に訪れた。
それもあの人の方から、僕と話をしてみたいと言うのだ。それも最後の話し合いらしい。
『場所は駅前ビルの2階にある喫茶店。時間は昼の2時半。共を連れず、必ず、一人で来い』
何だか決闘を申し込まれた様な感じだ。
よし。今日こそ、話しを着けてやる。彼女を通じての伝言だったけど、僕はその話にのった。
彼女は僕が一人で行くことに不安を示したけれど、僕は大丈夫だと笑ってみせた。

大丈夫です、ジュリエット。僕はあなたを必ず迎えに行きますから。
そう言って、僕は彼女を強く抱きしめた。
追いつめられたこの状況に、少し酔っているのかもしれない。
そして今、僕は小波さんの元へ向かっている。拳銃もバラも用意していない。あるのはただ、彼の大切なお嬢さんを心底愛しているという気持ちだけ。ただ、それだけだ。































posted by カオポン at 21:59| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月15日

夏色の影

試合終了の声が審判から下された瞬間、それまで守備を固めていた選手達が一斉に歓喜の声をあげた。
未だ勝った事が分っていないのは、最後まで投げぬいた投手。
わっと自分の周りに仲間が集まってきたのを知ると、ようやく帽子をとってお辞儀をする。そしてその場に小さくうずくまってしまった。

----良いなあ。あの子泣いてるよ。よっぽど嬉しかったんだ。

ベンチを抜けだして、私もグランドへ集まる。
すぐに列の後ろに立ち、それまで戦ってきた相手に向かって礼をする。
頭をあげた瞬間、相手を握手を求められた。
ありがとう、悔いの無い試合でした。そう言おうと思ったけれど、重なった手はすぐに離れてしまう。
「あーあ」と思わずため息をつくと、私の隣に並んでいた子がぽんと肩を軽く叩いてくれた。
私達は顔を見合わせて、「おつかれ」と挨拶をして笑った。




朝すぐに始まった球技大会は、広いグランドを二つにわけて試合が行われた。
半分は、女子のソフトボールと、男子のサッカー。
他にも体育館では、男女混合のバレーと卓球。人気なのはバレーとサッカーで、生徒達の応援はだいたいそこに集まっていた。

私のクラスは女子がソフトボールで、男子はサッカー。
自分も含めて、経験者は殆どいなかったけれど、休み時間の合間に練習を続けたら、結構上達が早かった。
大会の1週間前から予選会が始まって、私達のソフトチームは奇跡的に勝ち抜いてきて、とうとう今日の決勝戦まで残った。
サッカーの方は予選2回戦で、敗退。今日は敗者復活戦に出場する予定。
復活戦と言っても、PK戦だけを行う事になっていて、男子達は凄く不満がっていた。
どうやら手っ取り早く勝負をつけて、午後からの優勝決定戦に参加させる為らしいけれど、ちゃんと試合をしたい気持ちはよく分る。



posted by カオポン at 14:25| Comment(0) | GS2小噺 志波っち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月09日

「ただいま」開設

おかげさまで、ようやく開設しました。

「少女文庫」というサイトを閉じてから2年経ちました。
それまでの間、変わりなく…いや、あの頃以上に親身に接して下さった皆様に、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

つなたい読み物しかありませんが、良かったら足を運んで下さると嬉しいです。
.


「ただいま」 

なお、新しいサイトからは、こちらの「倉庫」はリンクしておりません。
新しいブログをリンクしてあります。
更新等は、そちらのブログを御覧下さい。
なお、「倉庫」は3ヶ月ほど移行期間を設けまして、それ以降はこちらのブログを閉鎖する予定です。
よろしくご了承ください。

ではでは!「ただいま」でお会いしましょう!
posted by カオポン at 02:14| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月05日

あと、もう少し

サイトつくり、終盤。


ume001.jpg


・・・がんばるぞ!
posted by カオポン at 20:57| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月01日

先生のお気に入り(改稿中)

先生のお気に入り その3


二人だけの音楽室。
ピアノの前には氷室先生がいる。何か思いをめぐらしているのか、腕を組んで
眠ったように眼を閉じている。
私はピアノの椅子に静かに腰を下ろすと、先生と向かい合いそっと先生の顔を覗いてみる。
生徒用の椅子に腰掛けた先生の姿は、長い足だけが強調されてなんだか可笑しい。
こんな生徒がいたら、嫌だろうなぁ。生徒会長とかになって、
風紀を乱す者にとことん厳しい制裁を与えるような気がするもん。
でも、一度だけでいいから一緒に生徒になりたかったなぁ。
先輩と後輩の関係でもいいから、「せんせえ」ではなくて「零一さん」って呼んでみたかった。
そして、自分からどんどんデートに誘って、お弁当作ってあげて、メールもだして、
学校の帰りには一緒に喫茶店に入って、その後は近くの公園で暗くなるまで話をするの。
そして…。

「山口、何を覗き込んでいる」
「わっ!」
驚いた!眼を閉じていたのに、どうして私の様子が見えたのだろう。
思いっきり弾んだ私の心音を表すかのように、私の右手中指が勢いよく一番高い音の白鍵を
弾いた。
「こ、こんにちは」
慌てて舌を縺れそうになりながら挨拶をすると、私はピアノの方に体を向きなおした。
「クラブ活動はどうした」
「もう、終わりました」
「そうか」
「今日は水撒きだけだったから」
「そうか」
教室の中で聞く声と変わらない硬い声。
どこか機械的で、感情も抑揚もない声。
でも、それは私の前であえてそんな態度を取っているように見える。
私は「少しだけ触らせて下さい」と先生に断りを入れると鍵盤に指を沈める。
先生の視線を背中に感じたまま、私のピアノは先生に語りかけるように歌う。

せんせえ、本当に佐々木先生の事は何も想っていないの?
せんせえ、気付いてました?
私、せんせえの事ちょっとだけ嫌いになりそうだった。ちょっとだけね。
ううん、違う。本当はせんせえの事は大好きだよ。
でもね、苦しいの。佐々木先生に、せんせえの心が奪われてしまったような気がして、
心配で…心配で…夜も眠れないくらい心配だった。

言葉にして先生に直に伝えられたらどんなに楽だろう。
もしも、私が先生の恋人だったらヤキモチ焼いていた事ぐらい、簡単に伝える事ができるのにな。
こんなに心の中は激しいものがあるのに、それを伝えられないもどかしさに、
私のピアノはだんだんと荒々しくなっていく。
クラシックでもなく、ジャズでもない。これは私の心の響き。
悲しみや、苦しさや、憎悪や、そして愛がいっぱいにつまった私の恋の歌。
先生もピアノにぶつける私の感情に気付いたのだろうか。
背後で先生が立ち上がるのがわかる。

「山口、もっと音を大切に。先ほどの左のアルペジオはもっとやわらかく」
「……」
「遊びで弾いているのか?レッスンを受けている事を自覚しているか?」
「……」
「肩があがりすぎている、このまま引き続けると腕を痛めることになるぞ」
「……」
「どうした…聞いているのか…」
「……」
「もういい。今すぐに弾くのを辞めなさい」
「……」
「辞めないか!」
「……」
「返事をしなさい!私の言っている事が聞こえないのか」
「……」
「山口」
「……」
「山口!」
「……」
「美雨……」

明らかに動揺してる。そして、私を気遣う声。
先生は久しぶりに私の名前を「美雨」と呼んだ。
それは二人きりの時にしか、それも滅多にそんな「個人的な」呼び方はしない。
いつもなら、その時点で私の心は思いっきり跳ね上がる。
でも、今は必死になって先生に抵抗した。何だろう…これは先生への精一杯の抵抗だ。

先生は、私の隣に椅子を移動させると、横にぴったりとついて私の横顔をじっと見つめた。
「美雨…言いたいことがあるのなら私にはっきり言いなさい」
「……」
「どうした、何故答えない」
「……」
「美雨!」
先生の激しい声に、私のピアノは止まった。
全ての指を黒鍵に置いたまま、哀しげな音が幾つも重なったまま静かに響く。
音楽室の中に集まっていた光はいつの間にか弱くなり、灯りをつけなければならない程、暗い。

私は鍵盤から指を離した。こんなに強く叩いた事がなかったから、指の関節がきしりと痛んだ。
これは私の心の痛み。先生を想う、痛み。
俯いていた顔をゆっくりとあげて、隣りにいる人の顔を見た瞬間、私の眼から一粒、涙が零れた。

「さびしかったの…せんせえ…」
「山口……」






ママ!やっぱり、私はまだ子供です。
「最近のアナタは変わった」って言ってくれたけれど、私はちっとも成長していない。
先生の前では絶対に泣かないで、一生懸命にいい大人になろうと思ってがんばっていたけれど、
やっぱり駄目だった。
いい大人になるには、まだまだ先が長そうです。


こみあげてくる感情を抑えきれずに、私は先生の前で泣いた。
急に壊れたように泣きじゃくる私に、始めのうち驚いた表情を隠せなかった先生も、
次第に余裕のある優しい眼差しを私にくれる。
どうして、私がこんなに泣いているのに、先生ったら口元に笑みまで浮かべて
私を見ているのだろう。
改めて、先生の大人な態度に腹が立ち、真っ白な先生のシャツに向かって私は唇を震わせ、
泣きながら激しく抗議する。

「せんせえの馬鹿ぁ」
「そうだな。私が馬鹿だった」
「もうやだ、さ、佐々木せんせえも、ひ、氷室せんせえも、だ、大嫌い」
「分った、分ったからもう泣くのはやめなさい。ほら涙をふいて」
「わが、うえっ、せ、せんせえ、わかってない」
「そんな事はない、私は君の事をよく理解している」
「ち、ちがう、せんせえは、み、美雨のことなんか、わ、わかってない」

どんどんと加速するように私は子供に戻っていく。
我ながら感心するほど、私はとても幼いのだと思った。
私が退行していく姿を先生はいつになく優しい眼差しで受け止めようとする。
細長い体をいつもより深く折りたたむようにして私の頭を何度も撫でてくれる。
いつもうんと背伸びをして見上げていた先生の顔が、こんなにも私の目線に
降りてきてくれたのは初めてだった。

「聞きなさい、山口美雨」
そう私の耳に先生の声が届いた時、ふわりと目の前が白くなったような気がした。
そして、先生の両腕が私の背中に触れているのに気付いた瞬間、私はぐっと息が詰まった。
「すまなかった」
「……」
「聞こえるか、美雨」
私の頬が、先生のシャツに触れる。
シャツの向こうから聞こえてくる先生の心音が私をゆっくりと落ち着かせてくれる。

抱き合うのではなく、私は先生の胸の中に包まれていた。
「君も気付いていたかもしれないが、彼女は私にとって大切な生徒の一人だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
しかし、君を含めて他の生徒達の気持ちを軽んじていた事は間違っていた」

それ以上でも、それ以下でもない。
佐々木先生の事を想って、また涙が溢れてくる。
「どうした?君をこれほどまでに泣かせる要因を…教えてくれないか」
背中に添えられた先生の手は、とても暖かい。
うずめていた顔をそっとあげると、先生と目があった。
息がかかるほどの近くで、先生は私を見つめている。
「どうだ?少しは話す気になったか?」
照れているような、困っているような表情で、先生は私に答えを求める。
「せんせぇ」と言おうと思って口を開きかけたものの、やっぱり気持ちが高ぶってしまう。
「わーん」と子供の様に泣き声をたてると、先生は大きくため息をついた。

「山口」
私がこれから言うことを、心して聞きなさい。
先生はそう言うと、軽く咳払いをした。涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、私は先生を見つめた。
「あー、君は…君は…私にとって」
私にとって、何だろう。その続きを早く知りたい様な、知りたく無い様な複雑な気持ちになる。
「一番大切な生徒だ」
先生の親指が、頬についた涙をぐいとぬぐった。
先生にそんな事をしてもらえるとは思ってもみなくて、私はまた泣いた。
「まったく…!」
さっきよりも、もっと大きなため息をつくと、先生は私の頭を撫でた。
「君がこうも非論理的とは」
誰かに聞かせるかの様に大きな声で言うと、先生は私を胸の中に引き寄せた。

「すまなかった」
先生の頬が私の顔を埋める。私の心はふわりと舞い上がる。
「せん…せえ…」
小刻みに震える背中を、先生の手が何度も優しく撫で擦る。
泣きじゃくる赤子をあやすかのように、先生は時々抱きしめる腕に力がこもる。
そしてその度に、先生の鼓動が激しく打ち付けるのを私は強く感じる。
腰から下は硬いピアノの椅子の感触をはっきりと感じながらも、
私の上半身は夢の中にいるような感じだった。

自分の両手をどこにもっていこうか、私はほんの少し迷った。
映画で見た恋人達の様に、互いの腕を相手の背中にからませるのは
今の私には恐れ多い行動だと思った。
でも、かすかに漂う先生の香に、抑えていた理性が飛んでいきそうで、
私は思わず先生のボタンをぎゅっとつかんだ。
ずっと昔、こうやって父の胸で泣いていた時の事を思い出した。
尽が生まれて、両親の愛を全て尽に奪われてしまったのではないかと思った私は、
親の気をひきたくてわざと尽の顔を引っ叩いた。今思うと、何て幼稚な抵抗だったのかと思う。
でもその時、パパは私に手をあげるどころかずっとこうやって抱きしめてくれた。
パパの心音を聞きながら、嫉妬に燃えた私の心をゆっくりと冷やしてくれた。
今、私を抱きしめてくれる先生も、パパとよく似た匂いがする。

「美雨、明日からまた氷室学級の生徒としてがんばりなさい」
「はい、せんせえ…」

ゆりかごの様に優しく揺れる腕の中で、私は先生の背中にそっと手を伸ばした…。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


数年前に続き物として書いていたのを、こんな感じでもういちど書き直してますよ〜。

posted by カオポン at 23:49| Comment(0) | ときメモ小噺 (氷室) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月29日

酔っ払いの文で更新

今朝、おきてすぐに「いろどり」を見てました。

昨日の晩、焼肉を食べに行って(うちんところは、殆ど野菜と魚ばっかりの生活で、焼肉なんて半年に一度ぐらいなんですわ)
焼肉と一緒に焼酎をロックで二杯。

たった二杯で、昨日は随分良い気持ちになりました。
こんなんで酔うなんて、最近疲れているんだなあ。
そのあと家に戻って、このところ書いてないなあと「いろどり」と書いていたのは覚えています。
でも、何を書いていたのか全然覚えがない。
酔っ払って書いたついでに、UPまでしてる。

先ほど読み直して愕然としました。
なんじゃ、この文章は。


先ほど手を加えて、UPした部分の話の前にも一つ話を書き加えました。
と、言うことで今日は「蒼の季節 その4」と「その5」。2編UPです。

酔っ払った時に書いた話のすじを、この後も話しに続けていこうか
それともいっそのこと消してしまおうかと思ったのですが
続けていくことにしました。


さて今日は、お昼から近所へお散歩がてら、ごはんを食べに。
平日なのに、偶然私も家人も休みになって、昨日の晩は「ばんざーい」と喜んでいたのに、
もう何もしないままに昼です。家人はまだ眠っております。
今から起こします。
ごはんを食べたら、ついでにお酒を買いに行きましょう。
今晩も呑みますよ。
焼酎ですか?ワインですか?
ちょっとサイトのことで相談に乗ってもらわなきゃ。






今日はあたたかいなあ。
(まだ酔っ払っているような文)
posted by カオポン at 13:29| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月27日

いいないいな

いいないいな♪
みんな楽しそうだな〜

みんながわくわくうきうきもえもえしてるのが

とっても嬉しいです。

おいらはおもいっきり乗り遅れておりますが、それでもみんなのもえもえオーラを感じるだけでも、それはそれでけっこうたのしいのです。


みんなみんな、そのもえをたくさん萌絵や萌小説に昇華して下さいませ。楽しみにしてますよ!


おいらはずっとサイトなぶりです。

昨日からちょこちょこリンクページを作っております。
あ、忍者さんなどの解析でばれちゃうな。
ご迷惑かけてましたら、本当にすみません。
勝手にリンクはらせてもらってますが、後日ご挨拶にうかがわせてください。


昨日、アマゾンから頼んでおいたCDがきました。
ひさしぶりに鈴木さえ子が聴きたくなりました。
鈴木さえ子と言えば、今ではケロロの曲担当で知名度があがりましたが
その昔はすっごくかっこいいドラマーで、良い曲いっぱい作ってました。ムーンライダーズの鈴木慶一氏の元奥さんです。

二人がまだ甘い蜜月を過ごしてたであろう頃のCDです。
ぷんぷんにかっこよくてえろい。
鈴木さえ子すきだー。

あと、やのあっこちゃんを買いました。
いまわのきよしろー兄さんと一緒に歌っている「ねえ おねがい」が凄い名作です。
きよしろー兄さんは少し前まで闘病していて、このまえ復帰しました。
そのお祝いをこめて聴いております。
なんか泣けてくるよ、すごく良い曲だ。


ではでは、また。


posted by カオポン at 09:23| Comment(0) | 益田・ジャズ小噺 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月24日

サイト作りがんばる

パソコンの容量が大きくなったので、やっと色んな作業がしやすくなりました。
雪山から帰ってすぐに、サイト作りをしております。
気がつけば、夜中の3時半。
夜、買出しに行くのを忘れて白菜と卵だけでご飯にしました。
白菜を鍋でことこと煮て、
それをご飯にかけて、玉子焼きを乗せて、最後に白菜を煮たスープをとろみ餡にしてかけました。
野菜天津飯です。
見た目は思いっきり地味でやんすが、けっこう美味い。
白菜うまーい。

サイトの方は、
昔書いたものから、今書いているものまでごちゃまぜになりそうです。
GS2で書きたいものも、いっぱいいっぱいあるのですが、
まずは「いろどり」を書き上げたいです。
それが終わったら、志波くんの話。

あと、氷上くんの話も書きたい。


あと、今すごく好きなのが「さよなら絶望先生」です。
めちゃくちゃ、絶望先生に萌えです。

posted by カオポン at 03:37| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月20日

春の嵐


「諸君、今日3月14日は、何の日か知っているか」

朝のホームルームの時間、いつもの如く氷室先生は厳しい表情で私達に話し掛けた。
何だったけ?私は一生懸命に考えてみる。
3月14日って言ったら、やっぱり「ホワイト・デー」でしょう?
でも、先生があえてそんな事を生徒の前で話題にしたいとは思えない。

先生は時々、「今日は何の日か」と皆に問題を出す事がある。
「今日は耳の日でーす!」みたいな、生活に関する簡単な事柄ならまだしも、
先生が「よろしい」と誉めてくれる答え方と言えば、だいだいが歴史とか偉人の誕生に関するもの。
例えば、「今日、3月6日は24節氣の啓蟄にあたります」とか、
「1332年の3月6日に鎌倉幕府が後醍醐天皇を隠岐へ流した日です」とか、
「フランスの作曲家のラヴェルが生まれた日です」等など、ちょっと勉強しましたみたいな事を言った方が、その後の空気が良い方に流れていく。
ましてや「朝の芸能ニュースネタ」なんて言語道断。

だから私は、学校に出かける前に、新聞やネットで出来る限り情報を拾っておく事にしてる。
そこで今日は何だったかなぁ…って思い出してみたんだけど…やっぱり私も普通の女の子だと思う。
今日はホワイト・デーしか思い浮かばない。
やれやれと思いながら先生の顔を見ていると、前の席に座っている有沢さんが手を挙げた。

「有沢」
へえ、さすが有沢さん。ちゃーんとしっかり調べてきてるんだ。
広い教室に、すらりと伸びた有沢さんの手。
有沢さんは起立すると、姿勢を正して先生を見上げた。
そして後ろを振り返って、あたしの顔を一瞥する。
(あなた、調べていなかったの?)
そんな声が聞こえてきそう。冷ややかな眼で、でも少し「勝った」様な満足した顔で私を見る。
有沢さんがそんな顔をするのは意味がある。
ちょっと前に私が有沢さんの後に続いて発言したら、
「有沢の答えも正解だが、君の答えの方が興味深いな」って、先生が感心する様な顔をした事があった。
それからかな、先生がこの手の質問をした時は誰よりも先に手をあげるようになったのは。
まるで私に意見を言わせたく無いような、変な意地を感じる。
私は別に、有沢さんと張り合おうって気は全然無いのだけど。


「3月14日。この日は明治三傑の一人、伊藤博文が憲法を勉強する為にヨーロッパへ渡った日です」
有沢さんの抑揚を抑えた声が気持ち良く聞こえて来る。
「特に当時のイギリス、ドイツの憲法を勉強し、その後内閣制度を樹立し、彼は初代内閣総理大臣に就任したのです。
他には、忠臣蔵で有名な浅野内匠頭が吉良上野介に殿中で刃傷した事ですとか、1879年にアインシュタインが生誕した事ですとか…」
「よろしい、有沢。着席しなさい」
ひえーっ、有沢さん凄すぎ。
アインシュタインが生まれた日ぐらいは知ってたけど、他は全然知らない。
有沢さんは先生に「よろしい」と言われたのが嬉しかったのか、眼鏡の縁を少し上げながら席についた。

「そうだ、有沢の言うとおり、今日は歴史的にも多くの重大な出来事があった日である。
伊藤博文が当時行った行為は、私たちには想像もつかない程の決断であったはずだ。
西洋との交流がまだ盛んでなかった頃、彼は単身で海を渡り、
外の世界を学び新しく日本を変えようとした。
大変勇気のいる行動であったに違いない…」

先生の声が、朝の乾燥した空気の中で響き渡る。
私は先生の話を耳にしながら、教室の窓に視線を移す。
その時、急に強い風が吹き荒れて、砂埃が竜巻の様にくるくると巻き上がっていく。一瞬にして景色は少し黄ばんで見えた。





春一番が教室の窓を強く叩いていた。
暦の上ではもう「春」だけど、毎年この時期に吹き荒れる風は秋の終りの木枯らしより乱暴で冷たく感じる。
そういえば、今朝校門の前で立ち番をしていた先生の前で、私のスカートが思いっきり風でめくれあがった。
何だか、今日がホワイトデーだからと浮かれる私の気持ちそのものの様。
慌てて捲れあがるスカートを鞄で抑え付けたものの、スカートの中身のほとんどを先生に曝け出す始末。
たまたま他には誰もいなかったけど、先生の顔は思いっきり赤面してた。そして怒るよりも、酷く咳き込みながら私の前から去って行った。

それからすぐに始まったホームルーム。
春風の悪戯でめくれあがった私の太腿を見て、中学生の男の子みたいに赤面してた人とは別人の様な先生の顔。
さっきの赤面していた顔も好きだけど、今こうして皆に話をしている顔も結構好き。


先生の話を聞きながら、教室の壁に貼られた時間割表を私はぼんやりと眺める。
日に当たって少し黄ばんだ時間割表は、一年の間でいつの間にか誰の目にも留まらないものになっていた。
次の授業を気にしたのは一学期ぐらい。
後は升目にしきられた時間割表が、頭の中にしっかりと記憶されて殆どその表を見上げる事は無かった。
でも、私は皆と少しだけ違う。
「数学T」とマジックでこすれたように書かれた字を、そこだけ見つけるのが好きだった。
先生の授業はてんで難しくて、よく分からないけど、それでも先生の授業は好きだった。
教壇の上で、よく通った声で公式を説明している時の先生の横顔を見るのが好きだった。
でも、先生の授業を聞けるのもあとわずか。進級すれば、今度は誰が教科担任になるかわからない。


「…では、これで朝のホームルームを終る」
先生の言葉でしめくくられると同時に日直の号令がかかる。私達は一斉に起立した。
そしていつもの様に礼をして着席しようとした時、教卓の上から先生の視線を感じた。
「先生」
私は席を離れて、先生の傍へ寄った。
黒板消しをつかむと先生が書いたチョークの字を消しはじめた。
「山口。何故、今日は何も発言しなかった。君は他に意見は無かったのか?」
早速、先生の小言が始まる。
皆の喋り声で騒がしくなった教室は、私と先生の会話は殆ど周りには聞こえない。黒板と教卓のわずかな隙間にいる私達は、皆と同じ空間にいながら別の次元にいる様な気がする。
「えっ?発言…って…別になかったですけど」
私は呆けてみせた。
「君は今まで私の話を真剣に聞き、常に知識にしようと努力しているものだと思っていたが、それは違うか?今日はどこかうわの空だったな」

うわの空?そうだったかな。うん…そうかもしれない。
チョークの粉をできるだけ飛ばさない様に注意して、先生が次に黒板に向った時に気持ち良く書けるように、消し跡の流れまで気をつけて消していく。
「何か今日は思い付かなかったんです。
本当は有沢さんの意見より、もっと大切な日だった様な気がしたんですけど…」

そう、私にとっては伊藤博文よりもホワイトデーの方が断然大切だと思う。

「そうえいば…」
私は少し高いところに書いた字を消そうとつま先立ちになった。
「なんだ」
「ちょうど1ヶ月前に先生にチョコあげましたよね」
私の言葉に、先生はしばし沈黙した。そして抑揚を抑えた声で「そうだな」と呟いた。
「だから」
「だから今日は何だと言える」
「いえ、別に」
先生の少し突き放す様な言い方にムッとした私は、何も言わずに先生の字を消していく。
知ってるくせに。
幾ら「そういう事」に興味がない人でも今日は何の日ぐらい知っているでしょ?
きっと「そういう会話」に乗らないように意識して知らない顔をしてるんだ。
私は、心の中で先生に噛み付いた。

一月前、私は自分で作ったチョコを先生に渡した。
市販の方がずっと出来も味も良いのは百も承知。ただ、気持ちだけは特別だという事を先生に伝えたかった。
でも先生は、酷く困惑した表情で差し出された包みを見ているだけだった。
ただ一瞬、短く爪を切り揃えた細い指が、ラッピングされたリボンの縁に少しだけ触れた。それだけだ。
先生はすぐにその手を引っ込めると、「チョコなら職員専用のチョコ受け付け箱へ入れる様に」と言った。
何だかあまりにも事務的な対応に、ちょっと頭にきて抗議しようと思ったものの、私は何も言えなかった。
冷たい言葉とは対照的に先生の顔は思いっきり赤面していた。
今朝、校門で会った時と同じような…少し恥かしそうな顔だった。

チョコを渡して以来、先生は少しだけ私への対応を変えた様な気がする。
授業中に眼があったり、廊下ですれ違った時に振り返ると、必ず先生の視線を感じた。それは思い込みかもしれないけれど、「山口」と呼ぶ先生の声が少しだけ温かみを感じるようになった。
でも今日の先生の声質は、いつになく冷たい。

黒板に書かれた文字をほとんど消せたと思ったら、まだ一つだけ消していない所があった。
ちょうど私の真上、背伸びをすれば何とか届きそうな所に、その文字は残っていた。

「勇気」
私はその言葉を読み上げた。
すると、教卓の上に教材を広げていた先生の手が止まった。
「そうだ、勇気だ」
先生は私の手から黒板消しを取ると、その二文字をサッと消し、手についたチョークの粉を指で擦りながら落とした。
「どんな者でも、一度は勇気を振り絞って行動を起こす事がある。例え、どんなリスクを背負うとわかっていてもだ」
「はい…」
「例えば…身分や国境や数々の障害があったとしても、好きになった相手と真剣な恋や愛を育もうとする勇気」
「えっ?」
先生の言葉から「愛」とか「恋」の言葉が出てきて、私は少しくすぐったい様な気持ちになった。
「わあっ、先生がそんな事言うの、何か恥かしいです」
「恥かしくなど、ない」
「だって、愛とか恋なんて言葉、私達は使わないもん」
「それは君達が真剣にその言葉を使える勇気が無いからだ」

先生の声はどこまでも真剣だった。
いつも鉄面皮な表情の先生が、この時はとても感情を表に出しているように見える。
「すみません、茶化しちゃって。でも、私もそんな勇気が欲しいです」
そう素直に謝った時、一時間目の授業の開始のチャイムがなった。
「私も、先生と真剣な恋がしたいから…」
チャイムの音に紛れるだろうと思って、ふと言葉にしてしまった私の想い。
瞬間、先生がきゅっと顔を強張らせた。
まずいと思って、逃げるように背を向けた時、先生は私の名前を呼んだ。
「山口!待つんだ。いや、待ちなさい…」
きっと叱られる。そう思って目を伏せると、先生は早口でこう言った。
「今日の帰り、私に付き合いなさい」
たぶん、そう言ったような気がする。ううん、そんな事言ってないのかもしれない。
ただ、先生の言葉が物凄く熱い響きに聞こえた。
私は耳がカッと熱くなるのを感じながら、席へ戻る。
教科書のページを広げる音。ペンケースのファスナーが開き、シャープペンシルの芯をノックする音。
授業が始まる直前の緊張感が、私の背中を押していく。

「山口さん、氷室先生に何か教えてもらえた?」
教科書とバインダーを机の右端に、きっちりと重ねて置いた有沢さんの席の前で、声をかけられた。
「ううん、もっと人の話を聞きなさいって注意されただけ」
「そう」
有沢さんの眼鏡の奥にのぞく切れ長の瞳は、少し笑っているように見える。
私の出任せをちゃんと見抜いているような笑いだった。
彼女の目から逸らすと、すぐに自分の席についた。

そして数学の授業が始まった。
いつもなら集中して聞いているはずの先生の授業も、今日はどこかぼんやりとした気持ちで授業を受けた。
先生が言った「勇気」や「恋」や「愛」の言葉が、公式を述べる少し硬い感じのする声と摩り替わって私の頭の中を痺れさせた。
そして、ノートの片隅に「恋」と「愛」と「勇気」を何回も書き綴った。授業に集中していないことは、きっとお見通しだったはずなのに、先生はそんな私に何も注意を与えなかった。





授業後、校門の前で私は先生の帰りを待った。
暫くして先生は私の姿を見つけると「途中までだが送っていこう」と声をかけてくれた。
今まで下校を共にした事は殆ど無かったから、私は緊張した。
今朝吹き荒れていた風は、夕方になってもおさまる事はなく、私の腿に突き刺すような寒さを感じさせた。
先生の車の分厚いドアをあけて皮のシートに腰を落ち着けると、やっと風を感じなくなった。

「それで、今日は沢山先月のお返しを貰ったのか」
いつもは殆ど何も入っていない鞄が少しだけ膨らんでいるのを先生は見逃さなかった。
「はい。まあ、わりと…」
私は鞄を胸に押し当てて、鞄の中身の膨らみを抑えた。
「それで…あとは私だけか?」
先生がそんな事を聞くのは不思議な感じがした。
そんな事聞いてどうするのだろう。
「だから今日は何だと言える」って、朝はあんなに冷たい調子で言っていたのに、どうしてそんな事を聞くんだろう。
どう答えよう。答えが見つからないまま、黙って窓から流れる景色を見ていた。

日暮れから時間が少し経ったものの、まだ空は明るい。何時の間にか日が長くなったと思う。
街路樹の木蓮の木は小さなつぼみをつけていた。来週の終業式の頃には、白い花が咲くのだろう。
先生のクラスの生徒としていられるのも、あとわずか。
もう、こんなふうに先生の助手席に座らせてもらう事も無いのかもしれない。
感傷に浸りすぎないように、私は無言のまま、窓の景色を眺める。
暫くすると、私の家の前で先生は車を止めた。

礼を言ってドアを開けると、外は強い風が吹いていた。
車を降りると、スカートの裾が捲れないように手で押さえつけながら、開いている手で扉を閉めようとした。
「待ちなさい」
閉めかかっていた重厚なドアは、先生の声でもう一度開いた。
「君に…渡したい物がある」
先生はそう言って車のダッシュボードを開けると、小さな箱を出した。
そして、「先月のお返しだ」と少し早口で言うと私の手に握らせた。

「あの…お返しを期待して、あんな事言ったんじゃないんです」
黒板を消しながら先生に投げかけた言葉は、御返しを期待する事より、先生の気持ちが知りたかった。
そう言いたいのに上手く言葉にならなくて、私はただ首をふるだけだった。
「分かっている」
怒っているような、恥かしいのか、先生の顔は少し紅くなっていた。
「これは、私の気持ちだ」
そう言うと、先生はこほんと咳払いをした。
「せん、せい…」
あたしは先生の言葉に心が震えていた。
「それでは、失礼する」

先生は車を発進した。
「さよなら」も、「勉強しなさい」とも先生らしい言葉をかける事も無く、先生の車はあっという間に見えなくなった。
私は先生に貰った小さな箱を胸に抱いて、暫く先生が去った方の景色を見ていた。
私を車に乗せている間、先生はずっと緊張していた。
「今日はホワイト・デー」と意識していたのは私だけではなくて、先生も意識していたのかもしれない。
黒板に書かれた「勇気」という二文字がそこだけ色を変えて書いてあったのを思い出し、何となく先生の気持ちが分かった様な気がした。





今日は3月14日。
私の想いが、少しだけ先生に通じたのかもしれない… 。





FIN









少し早いですが、ホワイトデー小噺。せんせぇの話なんて、久しぶりだ!
先生が「友好」から「好き」になるあたりかな?

「いろどり」の方は時間がなくて更新できませんでした。
雪山から戻ってきたら、また書こうと思います。ではでは〜

posted by カオポン at 00:04| Comment(0) | ときメモ小噺 (氷室) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。